不屈の精神を持つ天才ライダー
スタイリッシュなライディングで世界を魅了したカリスマライダー、マイク・エイケン。2008年に起きた大クラッシュの後遺症は凄まじく、日常生活を送ることさえ不可能かと思われた。
しかし、懸命なリハビリによって奇跡の復活を遂げたカリスマが、11月上旬に幕張メッセにて開催されたCYCLE MODEでショーを行うために来日。彼の姿を見て涙ぐむ往年のBMXファンがいる中、短いながらもダイナミックなパフォーマンスを披露した。そんな不屈の精神を持つ天才ライダーが家族やBMXの魅力について語ってくれた。
日本に来たのはこれで何回目になるんですか?
Mike Aitken(以下、M)これで三回目だね。最初に来たのは19歳か20歳の時で、ショーに招かれたんだ。
今おいくつなんですか?
M 30歳だよ。
30歳ながらBMXの世界では既にレジェンドとして認知されていますが、そもそもいつからBMXを始めたのですか?
M 親父が車のエンジンを知り合いと交換したことが全ての始まりだね。その交換した相手が一切金を持ってなかったんだ(笑)。だから代金の代わりに、JMC製アンディ・パターソンのジュニアモデルをもらった。その後に親父がコースに連れて来てくれて、俺がBMXをやりたいかどうか聞いてきたんだ。子どもの頃だったし、BMXみたいなクールなモノがあるなんて知らなかったけど、速攻ハマってしまったよ。BMXに恋をしてしまったんだ(笑)。あれは11歳の時だったと思う。
ユタ出身でしたよね?
M うん、ソルトレイクシティの郊外にあるテイラーズビルの出身だよ。
いつから大会に出場し始めたんですか?
M 友だちとネバタ州のリノに行って大会に出場したり、近くの州の大会に出始めたのが14歳の時かな。その時は結構真剣にレースもやってたから、レースの大会にも出てたんだ。それでアイダホやコロラドとかにも行ったりしたよ。でもレースみたいな競技は周りが真剣過ぎて、やる気を失ってしまった。レースはちょっと俺にはコンペティティブ過ぎたんだ。俺は自分自身に課した挑戦は止めないし、コンペティティブな人間だと思うけど、周りに対してはそこまで競争的じゃないからさ。
最近エントリーした大会はありますか?
M 2008年のDew Tourが最後かな。事故が起きる2週間前の大会だった。予選では勝てないかなと思ってたんだけど、地元のソルトレイクシティでの開催だったから、特別に参加枠で招待してもらったんだ。そんな大会で優勝できたのは、すごく光栄な事だったよ。
事故後は奥さんの献身的なサポートのおかげで回復したと聞きましたが、あなたにとって家族の意味とは?
M とてつもなく大きいものだよ。事故の後は意識がない状態で集中治療室にいたんだけど、見舞いに来てくれた人のほとんどが俺の姿を見て泣いていたらしいんだ。もう駄目かもしれないってね。3週間も昏睡状態で自力での呼吸も不可能だったし、足も麻痺していた。でも、妻は俺が戻ってくるのを信じていたんだ。むしろ俺の意識が戻るのを知ってたんだと思う。だからすごく献身的に世話をしてくれたんじゃないかな。辛い時って弱い心じゃ乗り切れないけど、こうして回復できたのは彼女の強さのおかげさ。家族は心から本当に愛してる。俺が戻れて来られたのは神、家族、愛があったからだね。
こうして日本に戻って来られた今の心境はどうですか?
M 日本は大好きだから、戻って来れて素直に嬉しいよ。俺が普段親しんでいる文化とはまったく違うけど、日本と南アフリカは良い所だと思う。あと日本が好きな理由は、みんながハッピーなところかな。少なくとも俺にはそう映るんだよね。日本は社会的な制約が多いだろうけど、日本人みたいに謙虚に暮らしている人たちと触れ合う事によって俺自身もハッピーになれるしね。
今回のあなたのパフォーマンスを見て泣いてるファンもいました。
M すごく謙虚な気持ちにさせられたよ。それって脳みそで考えるとかじゃなくて、心で感じてくれたってことだからね。俺にとっては凄く意味のあることなんだ。これまで自分が目指す所にたどり着くまでに、いろいろ努力してきたしね。何があっても神が助けてくれるし、だから信じて困難と戦っていくべきだと思うんだ。自分を否定する奴らもいるけど、暗いトンネルの向こうには絶対光があるはずだから。たまに終わりが無いように思えるのも事実だけどね。
あなたが考えるBMXの魅力とは?
M シンプルなんだけど、初恋の相手みたいにすぐに虜になってしまうところかな。あまり気づかないと思うけど、BMXをやることでストリートでのトラブルを避けることができるし、一生付き合える友だちができるところも良い。BMXを始めた時に会った奴らとは今でも友だちだしね。俺の場合はスポンサーがついたおかげで、世界中に行くことができた。レースの大会に出場した時にブライン・フォスターと出会えて、そんな憧れの人物とチームメイトになれたんだ。今では「兄弟」って呼び合う仲だよ。BMXは世界的に見たら小さなシーンかもしれないけど、すごく深いものなんだ。BMXの世界では、子供の頃に憧れた人たちと簡単に会えたりするのもBMXの良いところだよね。他のスポーツでは、一流の選手と気軽にサンドイッチを食べに行ったりなんかできないだろうしね。
話をさせて頂いて凄く謙虚な人柄が伝わりました。日頃からそういった事は意識しているのですか?
M いや、特にそうしてるわけじゃないよ。普通にしてるだけ。俺にとって人間をジャッジできる存在って神だけだしね。世の中には、デカいエゴに囚われてる奴らもいっぱいいる。だけど、そいつ等が人の命を救ったり、より良い世界を作ろうと努力しているわけじゃない。逆に人の命を救おうとしてたり、ポジティブに世界を変えたりしようとしてる人たちが俺の中ではヒーローだね。
今後はどのような事をしていきたいですか?
M これからもBMXに乗り続けて、もっとうまくなりたいね。ヘルメットを作っている会社とコラボもしたいんだ。それと家族と小さなバンで旅行しながら、BMXを子どもたちに教えられたらと思ってる。新しいトリックも習得したいね。自分の頭の中にトリックのやり方がつまった箱があるんだけど、自分の身体が言うことを聞くようになったらブチ開けるつもりなんだ。こうして呼吸ができて、話すことこともできるし、風が吹くままに生きてければと思ってる。みんな愛してるぜ、良い一日を!
Interview: HIDDEN BMX No.1
2013 November
Text: SO, Photo: Hidenori Matsuoka